成生(なりう)防備衛所(その1:探索準備編)

要約

  • 舞鶴防備隊の成生防備衛所を探索しました。探索に至るまでの準備についてご紹介します
  • 探索にあたっては、「自転車と山の日々」というブログの「成生岬灯台へ(2018/4)」という記事と、「たまや」さん発行の「舞鶴要塞これくしょん」を参考にしました
  • 成生防備衛所までの行程は道路が整備されておらず、登山道すらありませんでした。このため、探索の時期や装備を検討し、慎重に準備を行いました

成生防備衛所

 海峡や重要港湾への敵潜水艦の接近を探知するために、日本海軍は「防備衛所」と呼ばれる施設を各地に設置しました。鎮守府が置かれるほどの重要な軍港であった舞鶴周辺にも、博奕岬防備衛所、新井崎防備衛所、成生防備衛所の3か所の防備衛所が設置されました。今回、このうちの成生防備衛所を探索しましたので、ご報告します。(今回のブログは探索準備編です。成生防備衛所の遺構については、次回以降のブログにて改めてご報告いたします。)

成生岬への道は、ない

 成生は舞鶴湾の北西側に接する大浦半島の北端にある成生半島に位置し、成生半島の先端には成生岬灯台が設けられています。防備衛所は岬や半島の先端付近に設置されることが多く、おそらく、この成生岬灯台付近に設置されていたのではないかと推測しましたが、確証が得られない状況でした。また、成生岬灯台への行程を地図で確認したところ、道路は整備されておらず、登山道すら全くないことが分かりました。

成生の位置(成生半島の成生集落と成生岬灯台の位置を記載)
成生の位置

成生防備衛所の遺構をブログで確認

 さらにインターネットで調べたところ、「自転車と山の日々」というブログの「成生岬灯台へ(2018/4)」という記事で、成生岬灯台への山行記録が掲載されていました。この記事には、「戦時中の砲台跡」という解説で成生半島にある遺構の写真が掲載されていましたが、これは明らかに二式磁気探知機を設置するコンクリート台でした。二式磁気探知機とは、潜水艦を探知するために防備衛所に配備された兵器で、二式磁気探知機を構成する機器であるガルバノメーター等を設置するためのコンクリート台が防備衛所内に作られました。つまり、このコンクリート台を発見できれば、そこに防備衛所が存在したと判定できることになります。(詳細は本ブログの「防備衛所で見かけるコンクリート台」を参照ください)このことから、成生半島には成生防備衛所の遺構が現存することがはっきりと分かりました。

成生防備衛所の甲衛所で確認した二式磁気探知機のコンクリート台(筆者撮影)
成生防備衛所の甲衛所で確認した二式磁気探知機のコンクリート台(筆者撮影)

成生防備衛所の詳細な配置図を「舞鶴要塞これくしょん」で確認

 「たまや」さん発行の「舞鶴要塞これくしょん」を購入して拝読したところ、成生岬砲台に関連して成生防備衛所についても触れられており、成生防備衛所の詳細な配置図等が掲載されていました。この配置図から、成生防備衛所は成生岬灯台付近に設置されていたことが明らかになりました。また、同書には成生防備衛所の甲衛所の写真も掲載されており、こちらにも前述の二式磁気探知機のコンクリート台が映っていました。

成生防備衛所の探索を検討

 成生防備衛所の正確な位置が判明し、遺構が残されていることも明らかになったことから、同防備衛所の探索を実行したい、と思うようになりました。一方で、成生集落から成生半島の先端へ向かう道はなく、探索が可能かどうか慎重に判断する必要がありました。前述のブログから、成生集落から成生岬灯台への行程は、以下のような状況であることが分かりました。

  • 成生集落から成生岬灯台の往復で、休憩等を入れて6時間半程度
  • 標高は低いが、アップダウンが何度もある
  • 国土地理院の地形図では、成生集落から成生岬灯台へ向かう途中まで小道があるとされているが、成生集落を出発するとすぐに小道は消滅する
  • 滑りやすい土質である
  • 登攀具は不要であり、徒歩での踏破が可能である
  • クマやサルの出没が想定される(成生集落の住民からの情報)
  • 以前、成生岬灯台へ出かけた者が遭難騒ぎを起こした(成生集落の住民からの情報)

 また、想定されるルートと地形図に示された標高により、成生集落から成生岬灯台までの標高差を計算しました。成生岬から成生岬灯台までは上りが合計約430m、下りが同約370mでした。同じルートを戻るとすると、帰りは上りが同約370m、下りが同約430mとなるため、標高差800mの山を往復するのに等しいこととなり、それなりの体力を要することが分かりました。

成生防備衛所への探索を計画

 成生防備衛所への探索に当たっては、次のとおりの検討と準備を行いました。

(1)探索時期の検討

 戦跡や旧軍遺構の探索は、藪が薄くなり各種害虫等が減る冬場に行うのがセオリーですが、成生防備衛所が位置する舞鶴周辺は日本海側に位置するため冬場は雨が多く、雪が積もることも多々あり、探索にはそれほど向いていないと考えました。また、成生岬は滑りやすい土質であることを考慮すると、雨や雪の多い時期は避けた方が無難と思われました。さらには、成生防備衛所での遺構の計測や撮影にできるだけ多くの時間を確保するためには、日照時間が長い方が有利です。気象庁のホームページやインターネットサイト「旅行のとも、ZenTech」の気候データから、舞鶴の気候の特徴が分かりました。

  • 3月に入るとまとまった積雪は稀である
  • 1月から5月までは月を追うごとに降水日数(雨の日)が減少する

 探索時期が夏に近づくと藪や各種害虫等の問題が出てくるため、3月から4月初め頃に探索を行うことがベターであると判断しました。

(2)探索時の装備

 成生岬へ通じる道がないことを考慮し、万一に備えて1泊程度のビバークが可能な装備としました。準備した装備と配慮した点は次のとおりです。

  • 非常食、ツエルト(簡易テント)、防寒具、ライト等の持参
  • ココヘリ(ビーコン発信機:遭難時に救助隊から遭難者の位置を特定できる)の持参
  • 熊除け鈴、熊撃退スプレーを装備
  • できる限りの荷物の軽量化

(3)その他の対応

  • 現在位置を確認しながら前進すると時間がかかるため、前年の秋に下見を実施し、全行程の半分強についてルートの確認を行った
  • 事前に成生岬への行程の1.5倍程度の所要時間と標高差の山に登り、体力に余裕があるかを確認
  • 夜明けとともに成生集落を出発、日没1時間前には戻るスケジュールとした
  • まとまった雨が降ったときは、その後3日間は探索を実施しないこととした
  • 探索の行程を家族と共有
  • 探索開始時及び終了時に家族に連絡(探索終了の連絡がない場合は遭難を考慮)
  • 山岳保険への加入(ココヘリ加入の際、同時に保険への加入となる)

 以上のとおり、考えられる安全対策を講じ、2023年春に成生防備衛所の探索を実行しました・・・

成生防備衛所の門
成生防備衛所の門

 成生防備衛所(その1:探索準備編)は以上のとおりです。最後までお読みいただきありがとうございました!  成生防備衛所の遺構については、その2、その3にて、追ってご報告いたします。

参考文献

  • 海軍水測史刊行会事務局、『海軍水測史』、海軍水測史刊行会事務局、1979年
  • 自転車と山の日々管理人、『成生岬灯台へ(2018/4)』、自転車と山の日々、2018年4月15日、https://cycledays.asablo.jp/blog/2018/04/15/8826917(2024年10月29日参照)
  • たまや、『舞鶴要塞これくしょん』、たまや(発行)、2021年4月11日
  • 気象庁、『過去の気象データ検索』、気象庁ホームページ、https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php(2023年10月29日参照)
  • ZenTech管理人、『舞鶴の気温』、旅行のとも、ZenTech、https://www.travel-zentech.jp/world/kion/Japan/Maizuru.htm#top(2023年10月29日参照)